信州岩波講座/ふおらむ集団999
明治建国の先駆者坂本龍馬は、幼時より郷土土佐の地から海原はるかに広がる太平洋を眺め、国の行く末を考えたという。
21世紀が間もなく始まろうとしているいま、この国は改めて開明が求められているように思える。政治が国民の信頼を失って久しい。教育がまったく方向性を見失っている。強いといわれてきた経済までも”おごれる者はひさしからず”の
譬えに違わず失速した。その結果、国民のモラルは地に堕ち、子どもたちの社会的諸事件や教育現場の混乱が日増しに増加している。いまこそ、文化の質が問われている。文化が「力」となることが求められている。
山国信州は、水平線をみることはできない。地平線さえも想像の彼方である。しかし、この大地にしっかり自分の足で立てば彼方の地平が眼前に拡がることを知る。市民が、一人ひとり自立した意志をもって文化を日常のものとしたとき、この国の未来もまた再び拓けるものと信ずる。
私たちボランティアグループ「信州岩波講座/ふおらむ集団999」は、市民的知性即ち市民のモラルの地平を拓くための地下水の役割を担う。古い歴史と市民文化の伝統をもち、いまもそれを守り育んでいる信州須坂で私たちは信州岩波講座の旗を掲げ、1999年より出発する。
故安江良介岩波書店前社長は、1995年松本市での「大江健三郎講演会」の前段の講演の中で、『私たちは、いま大変な時代に生きている。21世紀の人類の課題は、1)地球問題、2)問われる国家の枠組み、3)最も深刻なのは科学技術の無限の発達。』と警世の言葉を遺している。
私たちの思いはここから出発している。この言葉の重みを背負いながら有識者の知恵を市民に開放・交流し、もって市民の行動と思考の礎となることを願うものである。
須坂から始まったこのともしびが、やがて各地に点火して燎原の火の勢いを得るならば、確実にこの国の市民文化は、その地平に創造的時代を築くことができるだろう。
以上
1999年4月3日
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